TOF-SIMSとD-SIMSは何が違うのですか?

 D-SIMSは,酸素イオンやセシウムイオンによって固体表面をエッチングしながら,正や負に帯電したイオンを分析する装置で,主たる目的は,シリコン中のボロンの分析のように,無機材料中の微量元素の深さ方向の濃度変化を調べることです.
 TOF-SIMSは,Bi+やBi3+のような重イオンやクラスターイオンを照射し,照射箇所の周辺領域から生じるフラグメントイオンを高い質量分解能で分析することによって,フラグメントの分子構造を推定し,その情報から樹脂の分子構造や不純物,無機材料表面の有機系汚染物質の種類を推定する分析手法です.一次イオンとして重イオンやクラスターイオンが用いられるのは,質量数が大きいフラグメントイオンを生じやすくするためです.イオン照射によって既に損傷を受けた領域から生じるフラグメントイオンは,分析対象材料を構成する分子との相関が悪くなり,損傷前の分子の構造を推定することがむずかしくなります.そのためにTOF-SIMSでは,損傷を受けた箇所に再度一次イオンが照射する割合が低いうちに測定が終わるよう,一次イオンの照射量を1013 ions/cm2以下に抑えるようにしています.
 どちらも高感度分析が可能で,深さ方向分析もマッピングも可能です.違うのは,分析する材料と検出するイオンの種類です.TOF-SIMSは主として有機材料中の分子種の分析に,D-SIMSは主として無機材料中の原子種の分析に用いられます.

参考文献:
飛行時間型二次イオン質量分析法:Akira Ishitani:高分子 1994年43巻2月号p. 90
Characterization of polymeric surfaces and interfaces using time-of-flight secondary ion mass spectrometry. H. Mei et al., J Polym Sci. 60, 1174 (2022)

(ver. 240108)