オージェピークをピーク分離することはできませんか.

 オージェ電子の発生には三つのエネルギー準位が関与するため,得られるオージェピークも, XPSで得られる一つのエネルギー準位から発生する光電子ピークに比べて複雑な形状になります.また,電子線を用いるオージェ電子分光法で発生するバックグラウンドを除去する方法として提案されているSickafus法[1]は適用できるエネルギー範囲に制限があり,一般的には適用できません.したがって,XPSで行われるようなGauss関数とLorentz関数を組み込んだVoigt関数を使ったピーク分離は行われません.
 しかし,オージェ電子の放出過程は三つのエネルギー準位に関連するため,そのケミカルシフトの量がXPSで得られる光電子ピークよりも大きい場合もあり,微小領域での化学状態分析ができることで注目されていますので,ピーク分離を行なわずに波形を解析することが行われます.この解析には微分スペクトルも用いられます.例えば,スパッタリングによる深さ方向の成分変化を初期のスペクトルと終期のスペクトルを用いて中間のスペクトルを合成し,測定スペクトルと比較して推定することが行われます.波形解析の例として,オージェスペクトルの波形変化を系統的に観測することにより,3d金属の初期酸化状態を解析した結果[2]の一部を図に示します.なお,高エネルギー分解能オージェ電子分光器で得られたオージェスペクトルについて,標準スペクトルを用いてカーブフイッティングをするピーク分離処理(非負拘束最小二乗法)を行うことにより波形分離し,化学結合状態の分離を行った結果[3]が報告されています.

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図 Cr,Fe,Co,NiのLMMオージェスペクトルが酸素の吸着量によって変化する様子[2]



[1] 吉原一紘,吉武道子,“表面分析入門”p.82(裳華房, 2007).
[2] 阿部芳巳,Journal of Surface Analysis 8, 139(2001).
[3] 境 悠治,Journal of Surface Analysis 13, 239(2006).

(ver. 231201)