1 - 3 keVのエネルギーのArイオンは,AESやXPSで表面をスパッタするために使われているのに,低エネルギーイオン散乱では1 - 3 keVのArイオンを照射して結晶表面の原子配列を調べることができるのはなぜですか.測定中に原子構造は壊れないのでしょうか.

 試料に照射された1 - 3 keVのエネルギーのArイオンは,表面付近の原子によって散乱され,静電型もしくは飛行時間型のエネルギー分析器によって検出されます.Arイオンを散乱した原子は,結果として入射Arイオンによって弾き飛ばされるので,検出されたArイオンの数より多くの表面近傍の原子が弾き飛ばされている筈です.したがって,測定中に,原子構造は壊れているということになります.それでも表面の原子構造を調べることができているのは,壊れた場所に再びArイオンが照射されるよりも高い確率で,破壊されていない表面の原子から散乱されたArイオンが検出されるので,入射イオンのシャドウイング効果やブロッキング効果によって,結晶表面の原子配列を調べることができています.イオン散乱分析では,損傷は必ず生じるので,損傷の影響が出る前に測定を終えるようにします.

参考文献:
低速イオン散乱法:尾浦憲治郎:日本結晶学会誌 1987年29巻第2号p. 138-141

(ver. 240108)